電話してて彼が言ってくれたこと。
 辛いことも哀しかったことも忘れたくない、そう思えるきみのことが、とても好きなんだ。だってみんな忘れろ忘れようって、忘れてしまえばいいんだってそればかり。すごい好き。きみのそういうところ。
 私はこんな言葉を、他人に言われたことがなかったので、とても嬉しかった。
 自分の短所だと思っていたところを、愛しく思ってくれる人がいるなんて。

 でも私はやっぱり、どんな辛いことも切ない気持ちも哀しくて死にたかった夜のことも、全部愛しい私の気持ちだからいつまでも覚えていたい。いつかはきっと忘れてしまうけれど、私の記憶はなくなってしまうけれど、でも私の哀しかった感情がいつか、美しい何かを形作る手助けになってくれるはず。

 だから目を背けたくない。あの子みたいにしたくないの。私は。だから私は、あの子から離れた。